慢性疲労症候群

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慢性疲労症候群

総合診療科の外来をしていると、倦怠感を訴える患者さんは数多くいらっしゃいます。その原因を大きく分けると、炎症性疾患(感染症や膠原病など)、悪性腫瘍(がん)、内分泌疾患(甲状腺機能異常や副腎不全など)、神経筋疾患(重症筋無力症など)、精神疾患(うつ病など)などが挙げられますが、診察や検査で原因となる異常が見つからない、にも関わらず日常生活が制限されるほどの倦怠感がある場合に、この慢性疲労症候群の可能性を考えてみる必要があります。基本的には除外診断で、原因もはっきりしておらず、有効な治療法も確立されていませんが、患者さんにとっては、気のせいなんかではなく、心の問題でもなく、れっきとした疾患であるということを理解してもらうことが、とても重要なことだと思います。

概要

慢性疲労症候群は、別名「筋痛性脳脊髄炎」とも呼ばれます。感染症、免疫機能異常、内分泌代謝機能障害、神経精神医学的要因などとの関連が疑われていますが、未だ明確な病因は解明されていません。診断がなされていない場合も多く、患者数の把握も困難ですが、決して稀な疾患ではなく、一定数の患者が存在しているものと考えられます。若年〜中年に多く見られますが、子どもや高齢者でも見られることがあります。

臨床所見

患者さんごとに症状は異なりますが、主な臨床的特徴は次のとおりです。

  • 上気道炎などストレスイベントを契機に突然発症し、通常6ヶ月以上持続。
  • 重度の倦怠感。
  • 過度の運動により症状が悪化。
  • 睡眠をとっても疲れがとれない。
  • 思考能力低下や起立時のめまい・ふらつきを伴うことがある。
  • 患者は一般的に発熱を自覚するが、体温が上昇することはほとんどない。
  • 関節の痛み(関節痛)を自覚するが、関節炎を示唆する客観的な所見はない。
  • 脱力感があるが、筋力は正常。
  • 軽度の頸部・腋窩リンパ節炎が時折見られるが、病的意義のあるリンパ節腫脹ではない。生検されたリンパ節は反応性過形成のみを示す。

慢性疲労症候群の多くの患者は、その症状によって日常生活が障害されています。しかしながら外見上は健康に見えることもあり、親戚や同僚から詐病ではないかと非難されることもあります。このことは怒り、欲求不満、抑うつといった悪循環を引き起こす可能性があります。

診断

慢性疲労症候群は特定の検査で診断できる疾患ではありません。基本的な考え方は除外診断です。炎症性疾患、悪性腫瘍、内分泌代謝疾患、神経筋疾患などを診察、検査で可能な限り除外しましょう。

また、症状は少なくとも6か月間持続し、少なくともその半分の時間で症状の度合いが中程度〜重度を示す必要があります。

治療

慢性疲労症候群の患者さんを対象に多くの治療法が試されてきましたが、未だ根本的な治療法は確立されていません。したがって、マネジメントの基本は支援的なケアです。

疾患の理解

慢性疲労症候群に関して、患者自身が正確に理解することはとても重要なことです。また、医師であっても正確に理解している人は少ないでしょう。患者-医師の信頼関係構築のためにも以下のことを共通認識として確認しましょう。

  • 症状は想像上のものでもなく、詐病によるものでもないこと
  • 慢性疲労症候群はアメリカの権威ある医学研究機関が真の疾患であると結論付けていること
  • 新しい疾患ではなく、長年研究されている疾患であること
  • 病因は未だ完全には明らかになっていないこと
  • 根本的な治療法も未だ確立されていないこと
  • 重症度はさまざまだが、完全に良くなる可能性があること
  • 期待するほど改善しない場合もあること
  • 短期間で改善することは少なく、改善までに年単位の時間がかかる可能性があること
  • 臓器障害や死亡リスクは増加させないこと

諸症状への対応

慢性疲労症候群に関連する一般的な症状と併存疾患には、睡眠障害、痛み、うつ病、不安、記憶・集中力の低下、めまい・立ちくらみなどがあります。最も日常生活に影響している症状から対処していきましょう。薬物療法、非薬物療法の両面からアプローチする必要があります。

運動の役割

慢性疲労症候群の患者に対して、完全休養を提案したくなりますが、身体機能を維持するために適度な運動を行うことはとても重要です。倦怠感やその他症状の改善につながることもあります。しかし、過度な運動は倦怠感を悪化させる可能性がありますので、調子が良くなってきたとしても、やり過ぎないよう注意しましょう。

仕事内容の変更

若年〜中年に多く見られる疾患ですので、多くの患者は仕事をしています。そして仕事をできないほど症状が強いこともしばしばあります。そのような場合は必要に応じて、患者とその雇用主と仕事の変更の可能性について話し合い、患者が仕事を続けられるようにします。このような変更の例には、パートタイムでの作業、自宅での作業、昼寝や休憩などがあります。

実施しない治療法

これまでの研究でその有益性が確認されておらず、通常実施しない治療法の例は次のとおりです。

  • アシクロビル
  • 抗生物質
  • サイトカイン阻害剤
  • ガランタミン
  • 糖質コルチコイド
  • 免疫グロブリン
  • メチルフェニデート
  • モダフィニル
  • Rintatolimod
  • リツキシマブ   など

まとめ

私自身も慢性疲労症候群と診断した患者さんはまだ1人しかいませんが、総合診療、一般内科を診ていると、いつかは出会う疾患なのではないかと思います。誰も本疾患を診断できないと、患者さんは周りから責められ、ドクターショッピングを繰り返しながら医療不信に陥り、精神的にも病んでしまう可能性があります。治療が難しい疾患ではありますが、患者さんにとっては診断が同時に治療となるほど、「診断する」ということに大きな意味があるのではないかと思います。

参考:UpToDate

Clinical features and diagnosis of myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome
Author:Stephen J Gluckman, MDSection Editor:Anthony L Komaroff, MD
Deputy Editors:Jennifer Mitty, MD, MPHLisa Kunins, MD

Treatment of myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome
Author:Stephen J Gluckman, MDSection Editor:Anthony L Komaroff, MD
Deputy Editors:Jennifer Mitty, MD, MPHLisa Kunins, MD
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