前皮神経絞扼症候群(ACNES)

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前皮神経絞扼症候群(ACNES)について

先日、前皮神経絞扼症候群疑いの患者さんを診る機会がありました。総合診療科の中でも最近ちらほら耳にする疾患で、概要は知ってはいましたが、本疾患を実際に診察するのは初めてで、トリガーポイントを施行することになるのではないかと内心ヒヤヒヤでした。受診時には腹痛は消失しており、トリガーポイントは必要ありませんでしたが、病歴からは前皮神経絞扼症候群も疑われるかと思われました。おそらく麻酔科(ペインクリニック)が一番の専門科ですが、総合診療医でも対応できた方がいい疾患だと思います。UpToDateを参考にまとめてみましたので紹介します。

概要

前皮神経絞扼症候群(anterior cutaneous nerve entrapment syndrome:ACNES)は腹壁痛の中で最も頻度の高い疾患です。子どもから大人まで幅広い年代で見られます。症状が強い場合は日常生活も制限され、病院を受診することもあります。腹痛の精査として血液検査や画像検査がなされても異常は指摘できないため、診断されていないケースも多くあると思われます。主に病歴と身体診察から本疾患は診断されます。トリガーポイントはほとんどの患者に有効で、診断的治療ともなります。

病態

前皮神経絞扼症候群は、腹壁を支配する感覚神経(前皮神経)の絞扼によって引き起こされます。腹腔内外の圧力や周囲組織の状態、また肥満やきつい衣服なども影響している可能性があります。

痛みの受容器は2種類あり、皮膚や筋肉に存在する受容体を介した痛みは「鋭い」痛みとして認識されますが、内臓や腹膜に存在する受容体を介した痛みは「鈍い」痛みとして認識されます。腹腔内由来の疼痛の場合は、位置特定が困難であり、患者は腹部の比較的広い領域を疼痛部位として示しますが、対照的に腹壁由来の疼痛の場合は患者は通常1本の指でその場所を指し示します。

臨床的特徴

前皮神経絞扼症候群は慢性的な痛みであることが多く、腹壁の狭い領域(直径2cm未満)に最大の圧痛を認めます。 痛みは通常、腹直筋鞘の外縁に沿って発生し、主に腹部の右側に発生しますが、腹部のどこにでも、場合によっては両側にある場合もあります。また痛みだけでなく、皮膚の感覚障害(例:感覚鈍麻、知覚過敏、痛覚過敏、異痛症、冷感の変化)を伴うこともあります。腹部の筋組織の緊張が増悪因子です(例:立位、歩行、ストレッチ、笑う、咳、など)。通常は痛みは移動せず定位置です。

診断アプローチ

初期評価はもちろん病歴聴取と身体診察です。前皮神経絞扼症候群の特徴的な所見として「カーネットサイン」があります。腹筋の緊張(仰臥位で頭を持ち上げる、または両側下肢挙上する)により圧痛が増悪または不変の場合は陽性、軽減する場合は陰性です。カーネットサインは前皮神経絞扼症候群だけでなく、他の腹壁痛を来す疾患でも陽性となることがあります。トリガーポイントによる症状緩和は診断的治療となりますので、適切に施行できるなら施行してみてもいいでしょう。また、腹壁由来の疼痛の可能性が高いと判断した場合でも一般的な検査(血液検査、画像検査、など)を考慮した方がよいかと思います。

診断の特徴をまとめると、

●指1本で指し示すことができるピンポイントの痛み
●カーネットサイン陽性
●周囲の皮膚の感覚障害
●トリガーポイントによる症状緩和

治療

前皮神経絞扼症候群は、痛みを伴う状態ではありますが、致死的な疾患ではありません。治療の目標は、症状を和らげることです。腹部の緊張を伴う運動は症状を悪化させる可能性がありますので中止するよう患者さんにアドバイスしましょう。

痛みが治まらない場合に初めに検討する治療はトリガーポイント注射です。患者の83〜91%に有効とされています。局所麻酔薬のみ、またはステロイド併用で投与されることが多いようです。エコーガイド下で実施する場合もあります。痛みが消失しない場合や再発する場合は繰り返しトリガーポイントを行うこともあります。

内服薬としては、ガバペンチンや三環系抗うつ薬が使われることがあります。再発を繰り返す場合は、化学的神経溶解や外科手術が検討されるようです。

トリガーポイントのテクニック

圧痛点を確認し、1.5インチの26ゲージ針を軽くつまんだ皮膚に垂直に刺入します。疼痛部位に達すると、針の刺激で疼痛が誘発されます。そこにリドカインの1%溶液1〜3 mLを圧痛点に注入し、続いて1 mL(40 mg)の長時間作用型ステロイド(トリアムシノロン)を注入します。 診断が正しく、薬が適切な場所に注入されていれば、痛みは5分以内に改善するはずです。 麻酔薬の効果が切れると1〜2時間で痛みが戻ることがありますが、ステロイドを併用すると効果が持続することが多いです。この方法以外にも手技や使用する薬剤にはいくつかバリエーションがあるようです。

まとめ

実際に遭遇することは稀な疾患かと思いますが、救急で診察して鎮痛薬を処方し帰した患者の中に前皮神経絞扼症候群の患者が紛れていた可能性はあると思います。診断できなかったからといって命に関わることはありませんが、診断できたらかっこいいですよね!救急でトリガーポイントを施行するかと言われるとそれは現実的ではない気もしますが。少なくとも頭の片隅には置いておいた方いい疾患だと思います。

参考:UpToDate

Anterior cutaneous nerve entrapment syndrome
Author:
George W Meyer, MD, MACP, MACG
Section Editor:
Lawrence S Friedman, MD
Deputy Editor:
Shilpa Grover, MD, MPH, AGAF
Contributor Disclosures
All topics are updated as new evidence becomes available and our peer review process is complete.
Literature review current through: Jun 2022. | This topic last updated: Oct 05, 2020.
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